第156国会
参議院 環境委員会 参考人質疑 2003年4月17日
遺伝子組換え生物等の使用等に関する法律案(第1回)

○福山哲郎君 民主党・新緑風会の福山と申します。よろしくお願い申し上げます。
今日は、参考人の皆様方におかれましては本当に貴重な御意見をいただきまして、ありがとうございます。次の法案審議に大変参考になりまして有り難いと思っています。
先生方のお話を伺うと、共通をしたことが幾つかあるというふうに承りました。それは、一つはやっぱり不確実性というか、非常に科学的な知見の問題にしてもまだまだ分からないことが多いと、だから安全性の評価等についても非常に慎重にやってくれと。岩槻先生がおっしゃられました、科学はどれだけのことを知っているのか、我々がどれだけのリスクをチェックできるのかというお言葉は大変重たいと思いますし、天笠先生は科学的な知見を含めて予防原則を取り入れてほしいというようなことを言われましたし、加藤先生におかれましてもリスク管理で絶対安全ということはないので安全を図りつつ発展を目指していかなければいけないと、鷲谷参考人に至っても基本的に生物多様性の確保のために分からないことが多いというようなことをおっしゃられて、それぞれの参考人の皆さん、表現は違いますが内容的には僕は随分共通をされたことを言われたなというふうに承りました。
じゃ、この法律をどう評価するかということの場合に、私、非常に重要なのはやはり第三条の、主務大臣が基本的事項を決めなければいけないんですが、そしてこれを公表することになっているんですが、この中身がこの法律ではまだ分かりません。
それから、例の事業者が輸入をしてきたときに事業者自身がリスク評価をしてそして主務大臣に申請をするわけですが、それを主務大臣は有識者、学識経験者に意見を聴くということになっていますが、それも一体どういうリスク評価が事業者によってされていくのかとか、どういう学識経験者によってその申請が諮られるのかということも分かりません。
ですから私は、法律のスキームとしてはカルタヘナの議定書を担保するための法律としてこういうことができたことは非常に評価できると思いますが、本来的にこの法律が機能するかどうか、先ほど鷲谷参考人も言われました運用次第かどうかというのは正にここからの中身に懸かっているというふうに思っておりまして、そういう点において幾つかお伺いをしたいと思います。
まず岩槻先生にお伺いしたいんですが、先生は、私ちょっと論文を読ませていただいたんですが、今日の話の中では生物多様性で我々はどのぐらい分かっているのかということを言われたんですが、先生自身は生物多様性の危機だということをはっきりとおっしゃっておられます。危機の認識が日本人は足りないし政策決定者も足りないというようなことを論文で書かれておりまして、具体的にどのような点が危機だというふうに思われていてどういう状況に今あるのかということを、簡単には言いにくいと思いますが、教えていただけますでしょうか。
○参考人(岩槻邦男君) 最初にお断りしますけれども、科学的な知見が非常に乏しいという言い方をしましたけれども、それは、一方では二十世紀に科学が飛躍的に進んでいるというのが常識になっているというそういうベースで申し上げているんで、科学者がサボって何にもしていないと言われたら困りますので言っておきますけれども、すごく科学が進んでいる側面もあるわけですよね。例えば遺伝子組換えというようなことも、私どもは進化を研究するときに遺伝子組換えのような技術を使うというのが非常に有効に機能しているということもありますから、そういう意味でうんと進んでいるけれども、進んだ進んだといってもこの程度だということを申し上げているんだということを御理解いただきたいと思うんです。
ですから、生物多様性についてもう最近いろいろな施策が行われているというのは非常にいいことだと思うんですけれども、それでもまだ生物多様性に対する対応からいいますと非常に遅れている部分がある。例えばですよ、例えば絶滅危惧種の問題というのは、絶滅の危機に瀕している種の問題というのは、日本でも、多少欧米から後れましたけれども、様々な手当てがされるようになったんですけれども、しかし絶滅が危惧されている種というのが非常にたくさん挙げられているうちで実際の施策が行われているのはごくごく一部だけというのが現状ですよね。
しかも、こういう生物多様性に対する様々な人為の影響というのが現れるのは実は子や孫の世代なんですよね。今、我々が手当てをしておかないと子や孫の世代に非常に厳しい状態が出てくる。子や孫が気が付いたときにではもう既に手後れでどうしようもないわけですね。
そういうことに対する認識が、研究者もですけれども、政策決定者も、それから様々なところで非常に欠落しているんじゃないかということに危機的なことを感じているということをあちらこちらで申し上げているということでございますけれども。
○福山哲郎君 ありがとうございます。
それに対して、その危機的な状況に遺伝子組換え生物の科学的な技術が進んでいるということ自身はどのように影響を与えると岩槻先生自身はお考えなんでしょう。
○参考人(岩槻邦男君) 先ほどもちょっと申しましたように、資源に対する要求というのは、人口が増え、それから人間生活が多様化してくるということになりますと、これは徐々に増えていくんじゃなしに急速に増えてくるということを覚悟しないといけないということなんですよね。
本当は、私どもは実は学術会議でもつい最近そういうことで報告を出させていただいたんですけれども、二十世紀的な、エネルギーに非常に偏った、エネルギー志向に偏ったような生き方をしておったんではとても二十一世紀は生き切れないですから、今言われる持続的な社会、サステーナビリティーというのを維持するためには生き方自体を変えるということを考えないといけないということを強く主張させていただいているんですけれども、ただそれが今すぐグローバルに変わっていくとはとても期待できませんので、そうするとやっぱり二〇二五年には九十億になるというその予測に従った様々な対策をしていかないといけないということになるかと思うんですけれども、その場合には、資源に対する取り合いで戦争が起きないようなことをするとしますと、しようとしますと、やはり今の科学的知見を最大限有効に利用してどういうふうに確保していくかということを考えざるを得ないわけですよね。そういう対策が例えば遺伝子組換えで新しい作物を作り出そうということにも生かされている。
例えば、砂漠の緑化ということが言われますけれども、そこで稲を作ろうとしても耐塩性の強い稲がないと育たないわけですけれども、そういうものを作るというのはやっぱりこれまでやってきた細胞遺伝学的な手法だけによる育種ではとてもできないことなんで、やっぱり進んでいる部分を活用した部分というのがどうしても必要になってくるわけですね。
そうやって資源に対する対応を科学者としては対応していくということになりますと、先ほどからも議論されている今度はリスクのことが出てきますので、一〇〇%分かっていないことに対する対応ですから、それに対する保障をどうしていくかということを例えばカルタヘナ議定書のようなことで裏打ちしていかないといけないということだというふうに理解しておりますけれども。
○福山哲郎君 天笠参考人にお伺いします。
先ほど私が申し上げました、主務大臣が公表をしなければいけない基本的な事項の中身が重要だというふうに私は感じているんですが、天笠参考人も先ほどのお話の中で情報の開示の在り方とか市民の意見を反映できる仕組みが必要だと言われましたが、もう少し具体的に、こういったことがこれから先必ず必要だと、表示の問題もあると思うんですが、何かもう少し御示唆をいただけるようなものがあれば教えていただければと思います。
○参考人(天笠啓祐君) 情報公開なんですけれども、今まで私たちといいますか、いろんな市民団体が情報公開というのを求めてきました。例えば遺伝子組換え作物の環境への影響ですとか、食品の安全性に対する影響について、審議の過程が一切公開されておりません。ですから、審議会でどういうふうに安全性を評価したかとか、あるいは問題点は何かなかったのかといった点が一切公開されてきませんでした。ですから、そういう審議の内容自体を公開してほしいというのがまず一つあります。
そうしなければ、いわゆるブラックボックスの中で結果だけが出てきてしまうという、そしてそれでパブリックコメントを求めるという形になってきますと、結局パブリックコメントを求めて出しても、最初にもう結論ありきでありまして、変更されたケースというのはほとんどありません。ですから、結局、情報が公開されないということは、結果的にも結果が変えられないということにもつながってきます。
ですから、そういった意味でいいますと、やはり安全性評価というのは、食品の安全性にしろ、環境への影響の評価というのは、この生物多様性条約でもうたわれているように非常に重要な問題ですので、国民生活や私たちの健康、あるいは自然を守るためにも大変重要なポイントですから、その過程が逐一公開されるような仕組みにしてほしいというのが一番大きな点であります。
○福山哲郎君 加藤参考人にお伺いします。
先ほどの段本委員の質問にもちょっと共通をするんですが、恐らく最初は文科省、厚労省、農水省、経産省が持っている遺伝子組換え生物にかかわるガイドライン、いわゆる指針が元々のスタートでこれ始まると思うんですが、先ほど加藤参考人は、新たな科学的知見を取り入れる柔軟なシステムが必要だというふうにおっしゃられました。
それともう一つ、この法律は生物多様性を確保するための法律です。
この現状のあるガイドラインは、生物の多様性を確保するのにこれはまだまだ改善の余地がたくさんあるのか。各国の状況とかも加藤参考人はいろいろごらんいただいているようなので、もっと改良する余地があって、そのための柔軟なシステムとしてどういうふうな仕組みがあれば、ガイドラインが途中で変わったり、生物多様性がより確保できたり、また海外との関係も含めてバランスが取れるようになるのか。その辺のことについて、具体的に何かお考えがあればお教えいただけますでしょうか。
○参考人(加藤順子君) 今、環境中で利用される遺伝子組換え生物の審査をやっています、審査というか安全確認をやっておりますのは、農水省の指針とそれから経産省の指針と、二種類かというふうに理解しております。文科省の部分については個別審査になっていますので、具体的にどういう項目ということが見えておりませんので、と理解しています。ちょっと私、不確実かもしれませんが。ですから、産業利用に関しては農水省と経産省ということかと思います。
それで、項目自体については、基本的には、カルタヘナ議定書の中にリスク評価の項目というのが、やり方と項目というのが附属書に入っておりまして、そこに書いてあるような項目は基本的には入っているかと思います。ですから、もうちょっと改善の余地があると思いますのは、先ほど鷲谷参考人がおっしゃいましたように、もう少し生態学の専門家が審査にかかわるということが一つは大事な点かなというふうに思います。
それからもう一つは、新しい科学的な知見というのが出てきたときに、それに対して迅速に対応して、どういうスタンスに持っていくか、それをどういうふうに解釈するか、それをどういうふうな審査に反映させるかということはもう少し迅速にできるといいのかなというふうに思いまして、それは例えば情報の収集ですとか、それからその収集した情報に対して審議会あるいは審査にかかわる学識経験者のレベルでディスカスをもう少しするとか、そういうような体制が組めるかなというふうに思います。
それからもう一つは、やはりこの問題はどの国でもぶつかっている問題でして、ですから、そういう意味では、研究ですとか知見を国際的に共有して、国際的な協力でもって一番弱いところの研究をやっていくとか、そういうような国際的な協力体制を取るというのも一つの方法かと思います。
以上でございます。
○福山哲郎君 ありがとうございます。
鷲谷参考人にお伺いします。
先ほど大変詳しく御説明をいただいたのであれなんですが、鷲谷参考人の話で、短期的には遺伝子組換え作物によって食害抵抗性や病害抵抗性を発揮するかもしれないけれども、でもそれは、結果としては一時的な結果しか続かなくて、社会全体としては、実は害虫が抵抗性が増したりとかして社会的なコストは実はそっちが掛かる可能性があるとおっしゃられました。
先ほど岩槻参考人が言われた、人口増大をして、なおかつ資源が必要な状況の中で、短期的にはそういう話は出てくるんでしょうが、結果としては社会コストが掛かるという鷲谷参考人が言われた話の一体どこに接点を見いだせばいいのかというのは、僕らはお話を聞いていてもすごく難しいなと思うんですね。それを政策決定の場では判断をしなければいけないし、なおかつそれを国民に安全だということを説得もしなければいけない。でも、安全だということはひょっとしたら五十年とか百年先にしか分からないというような話も今日の参考人の皆さんのお話でありました。
こういう状況の中で、我々は一体、難しい質問なんでお答えにくいかもしれませんが、一体どこに力点を置いて判断をすればいいのかとか、今日お話聞いていて本当にどうしようかなと思っているんですが。鷲谷参考人、もし、済みません、こんな抽象的な質問で怒られるかもしれませんが、お答えをいただければ。
○参考人(鷲谷いづみ君) 遺伝子組換え生物の利用に限らず、同じことをたくさんやって単純なシステムで効率を上げようとすると、一時的には大変効率が上がるんですけれども、でも長期的に見るとそのシステムがまた崩壊してしまって、それと同時に環境の健全、生態系の健全性が失われるということをかなりこれまでも経験してきていると思います。
それは、遺伝子組換え作物などの利用に限ったことではないものですから、そういうやり方というのは多少危険だという認識が広まってきていると思いますけれども、それを何で判断していくかということなんですが、そこで生物多様性という視点を持って、生物多様性が失われないということをしておけば、生態系が不健全化して持続性がもう失われてしまうというようなことは避けられるんではないかという、一つの今の時代の生物多様性を保全、そうですね、そのときには短期的には生物多様性を保全するということは非常にコストが掛かることかもしれませんけれども、そういうことをしておくことによって後の世代の生活なり生産を守るという視点があると思うんですね。生物多様性影響評価と今言われていることは、そこまでをすることができる、不確実性もありながら。
それで、じゃ、どういう手法で、例えば食物の増産、食糧の増産をどうしていくかということを決めるのは、そういう生物多様性にはこういう影響があるかもしれないということを踏まえた上で、それはリスクに関する、不確実ではあるけれども、ある情報ですね。それとそのことが、だれかにとって、あるいは広く人類に何らかのメリットがあるわけですね。リスクを被るのはもしかしたら後の世代であるということを十分に認識した上で何らかの判断をしないといけないと思うんですが、その判断は、もしかすると自然科学の範囲ではなくて、私たちは情報を提供をします、もっと総合的に見て、今のリスクとメリット、それから公平性とかを見ながら社会が御判断いただくということなんじゃないかと思います。
だから、生物多様性影響評価で、そこまでの判断は求められてはいないんじゃないかと思っております。
○福山哲郎君 実は、正にこの遺伝子組換え生物の問題だけではないんですね。ついこの間、私もこの環境委員会で環境大臣相手に予防原則を導入するべきだと別のことで言って、いや、それは科学的知見がなければというような議論を、押し問答して、正に今日も同じ話なんですね、昨日も。
要は、安全か、なおかつ天笠さんの僕、論文を読んで実はあっと思ったんですが、安全か危険かということで、どちらかにはっきりしているものはむしろ対処しやすいが、問題は安全か危険かを判断しにくいグレーゾーンの場合であると。そのグレーゾーンのときに危険だと分かった場合の対策を立てておかなければいけないと天笠さんの論文に書かれていました。正にそのとおりで。
済みません、何か愚痴みたいな質問になりまして申し訳ありませんでしたが、とにかく本当に今日いろいろお話を伺わせていただいて、より法律的に、先ほどの透明性の問題やどういう人選が行われるか等をきっちり審議の中で確保していきたいと思いますので、大変貴重な意見、ありがとうございました。
終わります。
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